Live 2

 

ライブストーリー
B.B.King Opening Live at B.B.King Blues Club

2000年夏に、B.B.Kingがマンハッタンのタイムズ・スクウェアー(正確には42丁目)に「B.B.King Blues Club」というライブハウス&レストランを開店するというのでオープニングに行くことになった。

けれども実を言うと、丁度モナコ・グランプリを兼ねた2週間のモナコ&南仏滞在からニューヨークに戻って来たばかりで、日頃から色白で七難隠している私が真っ黒に日焼けしてうんざりしている最中だったから、できれば部屋でひっそりとしていたかった。

何しろモナコでたった1日、両手足に日焼け止めローションを塗るのを忘れただけで、露出していた肌のほとんどが火傷に近いくらいヒリヒリとして、その日に履いていたサンダルの日焼け跡が消えるのに約1年かかったのだ。おまけに、その日着ていた服は七分袖だったせいで、半袖のシャツを着ると、妙なところから突然日焼けしていて、そのコントラストはちょっと前のBARホンダのマシーンカラーとどっこいなほど、変だった。

だけども「BBのオープニングだったら、クラプトンが飛び込みでゲスト出演するかもしれないよ」という邪悪な(お~っと)考えがあちこちから聞こえて、もし行かずに後で「クラプトンが出たのに~!」などと知ったらば、ハラワタ煮えくり返るくらい悔しい思いをするのがわかっていたけど、同時に、もしクラプトンが出たりしたら、BBをクッてしまうから多分出ないだろうなぁという考えもあった。どっちにせよ、B.B.King のライブは初めてだったし、話のネタに行くことにした。(実際のところ、その頃、クラプトンはL.A.にいたらしい)

クラブの前はすでに開店初日を待つ長蛇の列が出来ていた。
私はこういう行事には単身で行くことにしていて、退屈することもなく係りの人がテーブルに案内してくれた。
それが、よりにもよって、ステージ中央のド真ん前で、B.B.Kingが座るであろう椅子からほんの1.5メートルくらいしか離れていないのだ。『参ったなあ…』と思いながら回りを見渡すと、ぎっしり人がつまっていて、今さら「あの、もっと食べやすい所に…」とは言い出せなかった。

ライブが始まる前にメニューが配られ、ウェイトレスのおネエさんに(毎度のことだけど)『どれが美味しいですか?』と聞くと、「さあ、今日が初めてだから、わからないわ」と言って笑う。適確な解答であった。
そこで、スモークサーモンのナントカカントカ(名前覚えられず)とダイエットコークを頼んだ。私はダイエットの必要はないのだけど、アメリカのコークはなぜかダイエットのほうがキリリとおいしい。
会場はなんとなく(行ったことはないけど)ラスベガスのショーをやるような感じで、近くにはB.B.Kingの親戚の皆さんが来ていた。テーブルはほとんど埋まり、食事のほうも次々に運ばれて来るというのに、私の「スモークサーモンのナントカ」だけがなかなかやってこない。同じテーブルの人達はすでに食事の半分は終わっている。
「まいったなぁ。これじゃあ、ライブが始まってしまう...」

私のカンは適中したのであった。

Clapton & BB

From the album "Riding with the King"
Eric Clapton(もちろん手前)& B.B.King
ご機嫌な様子のお二人さん。いや~できれば、後部座席ではなく、助手席に座りたい。
いや、どうせなら、運転席に座って、二人を乗せてぶっとばしてみたい。(とてもそんな笑顔ではいられないハズ…)

ステージにメンバーが出て来てしまった。
そして拍手喝采でB.B.Kingが登場して、私の右肩のちょっと離れたところの椅子に腰を下ろして、ギターを弾き始めた。観客のほとんどはすでに食事を終えて、食後のドリンクでいい感じになっている。
そして、私の「スモークサーモンなんとか」がデーンとテーブルに運ばれて来たのだった。

それは大変美味なるもので、お腹が空いていたし、食べないわけにはいかないし、私はひとり取り残された食事をしつつ、キングのブルースに耳を傾け、ちらちらとステージ上のメンバーを眺めた。そしてキングの衣装を見て一瞬、ギョっとした。まるで美川憲一がテレビで着ているようなスパンコールが一面ちりばめられたド派手なジャケット...。その衣装と、演奏されるブルースとのギャップがなんとなく物悲しくて、ああ、ブルースなんだなと妙に感心した。

話は飛ぶけど、かなり前に、ステージでアルマーニばっかり着ていたクラプトンに向かって『数千ポンドもする服を着て、ブルースをやる…とはね』というようなことを皮肉たっぷりにフィル・コリンズが言ったもんだから、それ以来、ぱったりアルマーニをやめて、大工仕事にでも行くのかい?と聞きたくなるような格好でステージに立つようになったクラプトンであるのだけど(余計なことを言いやがって…と私はその時ムッとしたが、もっとムッとしていたのはクラプトンだったらしい)それじゃあ、このB.B.Kingのギンギラギンの衣装はどーなのよっ!とフィル・コリンズの胸ぐらを掴みたくなった。

B.B.Kingのブルースは、私の耳にはショーブルースに聞こえた。
そういう風に、黒人はブルースを演奏して、一部の人達は有名になり、貧困や差別から少しは開放されたのだろう。

などとシリアスなことを思いながら、演奏中ずーっと私はサーモンを食べ続けていた。こうなれば、開き直って食べるしかない。キングは「よく食う女だ」と言わんばかりに、私の食べっぷりを見ながら演奏を続けていた。
そして、演奏が終わる頃、私の食事も終わった。

そして、やんやの拍手喝采を浴びてステージを去ろうとしたキング氏が、ポケットからバッジを出してステージ前の観客にプレゼントしていた(これはどこでもやっているらしい)。そして、「わしの演奏中、よー食ってたなぁ」とでも言うかのように、笑顔でポケットからネックレスを取り出して私にくださり、ぽってりした手で握手してくれた。
私が丁寧に「Thank you」とお礼を言うと、『Good ?』とB.B.Kingさんがお尋ねになったけれども、それが彼の演奏のことなのか、私が食べていたサーモンのことなのかわからず、だけど、どっちもとても良かったので、“イェース、ヴェーリ、グーッド!”と返した。

B.B.Kingは笑顔のまま、のっしのっしのっし...と、ステージを後にした。

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